遺失物預り所

Posted By Naru on 2009年2月12日

もう、数年前の出来事。確か、大学に入る少し前、高校生の時だったかもしれない。晴れの日の、昼過ぎだったことはよく覚えている。

どこへ出かけた帰りかは忘れてしまった。どこかからの帰宅途中、歩道に封筒が落ちているのに気がついた。同時に、地元の銀行の、ATMなどに置いてある、現金を入れる封筒ということも、すぐに分かった。

最初はゴミかと思ったけれど、白い封筒のため、かすかに1万円札が透けて見えた。その封筒を拾い上げ、あたりを見渡したけれど、少し先のバス停の前でも、バスを待っているのか、背広を着たおじさんが、私と同じように、きょろきょろしていたのは覚えている。

とりあえず、周りに落としたと思われる人はいなかったので、来た道を数十メートル戻ったところに警察署があるので、警察署に届けようと、来た道を戻った。その数十メートルの間で、仕事帰りで、自転車に乗った、私の母に出会い、その事情を話しているとき、先ほど、バス停の前できょろきょろしていた、背広を着たおじさんが声をかけてきて、「これも一緒に。君に任せる。」といって、走っていった。

背広を着たおじさんから渡されたのは、通帳。赤い字で「年金」と書いてあったように記憶している。私が拾った、銀行の封筒と同じ銀行の通帳だった。母と別れ、警察署に届け、今までの経緯などを話し、失礼だとは思ったけれど、なにか手がかりがあればと思い、一緒に、通帳の内容と、封筒の中身を確認させていただいた。

通帳には、もちろん、名前が書いてあった。封筒には、5万円入っていた。通帳を拝見すると、ちょうどその日に、5万円、引き出したことが記帳されていた。

書類を書いて、持ち主の方が現れることを祈りつつ、帰路についた。

数時間後、おじいさんから電話がかかってきた。通帳に書いてあった、名前の人であった。遺失物を返還してもらうには、拾得者である私が持っている書類の控えを、落とし物をした方と直接会うなどして、その書類の控えを渡し、落とし物をした人は、警察署にその書類を持って行って、遺失物を返還してもらうというシステムのようだ。私の連絡先は、警察署で教えてもらえるようだ。

私は、一応、落とし物を預かって、それを警察署に届けた者として、やはり、持ち主の方に返還されるまで、責任を持ちたいと思い、書類の控えを警察署で預かり、そうした。

その電話の中で、比較的、近所に済んでおられる方ということと、もう、通帳(すでに再発行手続きをされていた)も、現金もあきらめていたということを聞いた。とりあえず、その書類の控えを渡すために、おたがい、自宅近くのスーパーマーケットで会うことになった。

私が先に着き、おじいさんは自転車に乗って現れた。息子さんが長野県の大学に通われていて、夫婦で会いに行くための費用の5万円を銀行で下ろして、それを上着のポケットに、封筒と通帳を入れて、自転車に乗って、坂道をあがっているときに、はじめに現金を入れた封筒、そして数十メートル先で、通帳を落としたようだ。

家に帰って、なくしたことに気づいて、すでに銀行に電話をして、銀行の方に落とし物の連絡が入っていないということで、その時に、通帳も現金もあきらめたそうで、すでに通帳は、再発行手続きをしていたとのことだった。そして、警察に連絡はしても一緒だろうと思って、しないと思っていたそうですが、奥さんが一応念のためということで、電話をしてみると、「届いていますよ」と返答があって、その場で私の連絡先を聞き…といういきさつだったようだ。

おじいさんには、とても感謝をされ、日頃、幼稚園のボランティアをされているそうで、それがこういうかたちで帰ってきて、とてもうれしいと話された。

お礼はいいですよと言ったのですが、たくさんの抹茶オレをくださった。その紙袋の底に、お礼の1割も忍ばされていた。

家に帰ってから、おじいさんがそろそろ警察署から帰ってこられる頃だろうという時間に、おじいさんのお宅に電話差し上げ、抹茶オレとお礼の1割のお礼をした。その時、おばあさんが電話口に出られたのですが、おばあさんもたいへん喜んでおられた。

それから、数年。あのおじいさんとおばあさんには出会っていない。お元気だろうか。

今日、遺失物預り所がスピーカーから流れてきて、あの出来事を思い出した。

ほんの数時間の出来事だったけれど、私は、きっと、このことを、一生、忘れないと思う。忘れないでいたいと思う。


関連する投稿

About the author

Naru

シンガーソングライター・中島みゆきさんの駆け出しファンの大学生です。

Comments

Leave a Reply




"Time goes around"へようこそ

Time goes aroundでは、中島みゆきさんの歌にのせて、管理人Naruの日々の出来事や思うことを綴ります。


About the author

Naru

シンガーソングライター・中島みゆきさんの駆け出しファンの大学生です。